虚血性心疾患
(狭心症・心筋梗塞など)

虚血性心疾患とは?

心臓は血液を送り出し、全身の臓器に血液を送ることで栄養や酸素などを供給する人間の臓器の中でも非常に重要な役割を果たしている臓器です。心臓は収縮・拡張を繰り返し、全身へ血液を供給するポンプのような臓器です。
心臓は右と左、上と下の4つの部屋に分かれており、上の部屋は心房、下の部屋は心室と呼ばれます。
これらの部屋が連動して動くことによって、効率よく血液を送り出すことが出来ています。

心臓のシェーマ

心臓は動く臓器であり、ほぼ筋肉で構成されています。心臓の筋肉(心筋)は、骨格筋(腕や足の筋肉)とは違い、自動的に動いている筋肉です。心臓は全身に血液を供給していますが、心筋が動くためには、自分自身にも血液を供給し、栄養や酸素などを得る必要があります。そのため、心臓は血管に血液を送り出してすぐの所から、自分自身に血液を供給しており、この血管のことを「冠動脈」と呼びます(心臓を上から「冠」のように覆っているためこのように呼びます。)。



冠動脈の図

この「冠動脈」が狭くなったり、詰まってしまったりしてしまうと心臓は栄養不足になり、その血管が潅流している範囲の心筋の動きが弱ってしまうことがあります。


血管狭い図

また、動きが弱くなるまでは至らなくても、運動時など心臓に負担がかかって、心臓にもっと栄養・酸素が必要になった時に、冠動脈が狭くなっているがために十分な血液を心臓が受け取ることができず、胸の痛みや違和感、人によっては息苦しさなどとして自覚されることがあります。
このように冠動脈が狭くなることに起因する疾患・病気のことを総じて「虚血性心疾患」と呼びます。代表的な疾患としては、狭心症と心筋梗塞があります。 狭心症は、冠動脈が狭くなったり、詰まったりして、血流が悪くなり、胸痛などの症状が出現します。一般的には運動時に増悪し、安静により改善しますが、症状の感じ方は人それぞれであり注意が必要です。
例えば、運動時や運動後に肩の痛みを自覚され、肩こりや筋肉痛だと思っていたら狭心症であった、という方もいます。
逆に典型的ではない症状としては、運動していると良くなる痛み、押すと痛くなる、チクチク痛む、食後に痛くなるなどです。
ただし、全く症状を自覚することなく、冠動脈の狭窄が進行していく場合があります。
典型的には糖尿病を有する患者様の場合、糖尿病により痛みを感じる神経が弱くなってしまうと、症状を感じることなく病状が進行し、心臓の動きが非常に悪くなるまで進行した後に心不全を発症してようやく発見・診断されるケースもありますので、注意が必要です。



狭心症

狭心症の分類には、いろいろな分け方があります。症状の安定性で分ける分類、血管の狭くなり方で分ける分類などがあります。 安定性で分けると、①安定狭心症、②不安定狭心症に分類されます。安定狭心症は運動時に胸痛が出現し、安静にしていると改善するというもので緊急性は高くなく、外来で検査(心臓CT検査など)を施行して、狭心症が疑わしい場合に入院して検査をすることが多いです。
一方、不安定狭心症は、文字通り不安定な状態の狭心症であり、以下のような症状が認められます。


胸痛症状が増悪してくる

これは単純な痛みの強さもありますが痛む回数が増加したり、今までは坂道や階段を上った時だけ症状が出ていたものが、平地をゆっくり歩いても症状が出るようになってきたときなど、軽度の運動でも症状が出現するようになったりした場合も増悪していると判断します。


特に運動をせず、休んでいるとき(安静時でも)胸痛が出たり、心電図検査にて異常が認められたりしている。


心臓の筋肉が傷害されて、血液中に心臓の数値の異常が出ている。
これは採血検査で迅速に判断可能です。


不安定狭心症は、心筋梗塞と連続した病態と考えられ、緊急性を要する場合が多いです。そのため、外来を受診され、不安定狭心症と判断された場合には、そのまま緊急入院となり、緊急で冠動脈の検査(心臓カテーテル検査)・治療を施す場合もあります。 血管の狭くなり方で分類すると、①動脈硬化性狭心症、②冠攣縮性狭心症となります。
狭心症の多くは動脈硬化性狭心症であり、糖尿病、高血圧、喫煙習慣などが原因となり発症します。
一方、冠攣縮性狭心症とは、様々なホルモンが関与していると言われ、動脈硬化は殆どないところが、何かのきっかけで痙攣のような現象を起こし、血管を狭くしてしまい胸痛症状が発症します。


動脈硬化の血管狭い図と血管がけいれんしている図

このタイプの狭心症は、運動時よりも、夜間~朝方の安静時胸痛が多いと言われます。
日本人には比較的多いと言われる病態であり、治療は内服薬によるものが中心です。
内服薬と言っても、一般的な血圧の薬でもあり、副作用は少ない薬です。



心筋梗塞

心筋梗塞は、狭心症と同じように、冠動脈の病気ですが、狭心症と決定的に違うことは、血管が急激に詰まってしまい、
心筋に全く血液がいかなくなることにより、心筋が壊死(つまり腐ってしまう)する所にあります。

血管が詰まって心筋が壊死している図

心筋の一部が壊死することにより、生命の危機にも瀕するような合併症を起こすことがあります。
「急性」心筋梗塞と診断された場合には、一刻も早く詰まった血管を治し、血流を再開することが必要です。
そのために、緊急入院し、すぐに心臓カテーテル検査・治療を施すことが必要です。急性心筋梗塞は非常に恐ろしい病気であり、急激に状態が悪くなることもあります。
ついさっきまで軽い症状であった方が、急に危ない不整脈を起こし、心臓が止まってしまうこともあります。
そのような場合には、すぐに心臓マッサージや電気ショック、人工呼吸器装着などの心肺蘇生を施します。
場合によっては、カテーテル室で、補助人工心肺や大動脈内バルーンパンピングと呼ばれる心臓を補助する管を、太ももの付け根にある血管から挿入する事があります。これは非常に重症の場合です。
虚血性心疾患の診断・治療の中心になるのが、心臓カテーテルです。当院では、年間で検査:約500件、カテーテル治療:約200件、緊急カテーテル:約160件を施行しております。
当院は大学附属病院であり、様々な職種のスタッフを要しており、連携を取りながら、最適かつ最良の医療を24時間体制で患者様に提供できるように努力しております。
また、患者様の安全面を最重視し、必要のない場合にはカテーテル治療を行わず薬物治療のみで加療を行うこともあります。



虚血性心疾患の診断法・治療法

冠動脈は大きく分けて3本あります。心臓の左側に2本、右側に1本あり、それぞれが細かい枝を出して心臓全体を栄養しています。この血管を調べる事が、心臓カテーテル検査であり、これにより虚血性心疾患の確定診断が下ります。

細長い管状の医療器具のことをカテーテルと言います。その中で心臓カテーテル検査に使用するカテーテルは、直径で1.5mm程度です(治療の場合には、2-2.5mm程度です。)。
このカテーテルを、手首・肘・鼡径(太ももの付け根)の動脈(ドクドクと触れる血管)に入れて、X線画像を見ながら心臓の所まで持っていき、冠動脈の入口まで進めます。
血管自体は、X線では見えないため、カテーテルを通じて造影剤という液体を血管の中に流して、X線撮影する事により血管の状態を見る事ができます。


CAGに使うカテーテルの写真

また、カテーテル検査は、心臓の中や血管の圧力を測ったり、心臓の動きを見たりする役割もあります。
以下に、具体的な検査の内容を記載します。



これらの検査を組み合わせ、的確な診断、重症度の判断、最適な治療方法の選択を行っております。


緊急で心臓カテーテル検査を行う場合(急性心筋梗塞や不安定狭心症)には、冠動脈に病変があった場合に、そのまま引き続き治療を行う場合がありますが、予定入院で検査する場合、基本的には検査と治療は別の日に分けて行います。理由としては、造影剤使用量が多くなり、合併症の可能性が若干高くなること、放射線被爆量も多くなることなど、安全面から別の日にしたほうが良いことがあります。また冠動脈の治療をする場合には、手術前に抗血小板剤と言われる、血液をサラサラにする薬を2種類しっかりと飲んで頂いた方が安全に手術ができるため、できるだけ治療の前に薬で準備をすることが推奨されているため、緊急性がそれほど高くない場合は、先に血液をサラサラにする治療を行うことが多いです。


また、検査のみであっても、合併症の可能性は0ではありません。重大な合併症を起こす可能性は極めて低いですが、
基本的には検査中、ご家族の方は病棟で待機していただくようお願いしております。
検査終了後には、術者が結果説明に伺いますので、お待ちください。


虚血性心疾患つまり、心臓の血管病(狭心症や心筋梗塞)と診断された場合には、治療が必要になります。
治療方法には大きく分けて3つ(薬物療法、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術)あります。




生活習慣病の方が増えてきており、また我が国は年々高齢化が進んでおります。その中で虚血性心疾患を発症する患者様は非常に多くいらっしゃいます。
心臓は人間の体にとって、非常に重要な臓器であり、それを治療する医療者として最大限の努力と熟慮を重ねております。
患者様が安心して、治療に迎えるよう心がけておりますので、ここにお示しした内容が、患者様がより良い医療を受けるにあたり、その一助になれば幸いです。



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